
奥入瀬の自然は美しい。昔から沢山の画家が描いて来た。
その作品を見ながら私は若い時からあこがれてきた。
退職後、友人の好意で遂にその地を踏むことが出来、夢に見た奥入瀬渓流沿いにイーゼルを立てることが出来た。
時は秋、紅葉の色がすばらしかった。水も豊富でとうとうと流れ、川底や岸辺の岩に当たって砕け散り、千変万化する。
友人と「紅葉を主に描くか」「水の流れを主に描くか」などと話し合い、ワクワクしながら制作を楽しんだ。
しかし、この地は関西からはあまりにも遠い。行くのに2日、帰るのに2日、中2日描こうとしても一週間の旅になる。思う存分、奥入瀬で描きたいという思いを持ち続けていたが、平成23年これも友人の協力で実現することになった。
しかし、その年の3月11日、東日本大震災が起こったのである。東北はどうなっているのか。宿泊予定の民宿に問い合わせながら、スケッチ旅行は実現した。さすがに、その民宿の床が真二つにひび割れてはいたが、それ以上のことはなく、日程の中5日の間、奥入瀬渓流沿いに座り続け、思う存分制作に取り組むことが出来た。その間、大震災のことはすっかり忘れ、帰りは「平泉」経由で「名勝松島」に寄って見ようということになった。
車を走らせて、松島の町に入った途端、大震災後の惨状の中に飛び込んだ状態となり、友人と共に唖然となった。
町は家々の土台を残して消えていたのである。かろうじて残っていた二階建ての家は、一階部分が数本の柱だけとなり、二階部分は形こそ残っていたが、もちろん人影はなかった。
今でも目の裏に焼き付いて離れない光景は、ぽつりぽつりと残っていた各家の門柱である。表札が埋め込まれているものもあったが、それらがどうしても墓標のように見えてしかたがなかったのである。私は松島の町を離れるまで、合掌したまま、声を出すことが出来なかった。
今回の「絵はがき制作・支援販売」で思いを形にすることができた。出来る限り続けていきたいと思う。
皆様のご協力に感謝いたします。
奥入瀬と震災 (作品に寄せて)




















SM、F3、F6の三種類のサイズの作品を制作しました。
スケッチ、F3(中)、F6(大)の公開中です。



